まるで小旅行のような朝
もの忘れ外来の予約日。
この日はオネちゃん、ブッタ君、そして私の3人で、サニーちゃんを連れて病院へ向かった。空はよく晴れ、空気も澄んでいて、まるで小旅行へ出かけるかのような清々しさがあった。
病院に到着すると、すでに待合室にはたくさんの人々がいた。高齢の方、付き添いのご家族──その一人ひとりに、それぞれの物語があるのだろうと思いながら、私たちは受付を済ませた。
看護師さんのやさしい聞き取り
ほどなくして、看護師さんによる聞き取り調査が始まった。
サニーちゃん、オネちゃん、私の3人で診察室に入り、看護師さんの穏やかな声がゆっくりと空間に響く。誠実で落ち着いたペースで質問が続いた。
サニーちゃんの話は、いつもどこか取りとめがない。話があちこちに飛び、まとまりがない。しかし、看護師さんはそのひとつひとつに頷きながら、決して遮ることなく、最後まで耳を傾けてくれた。その姿勢に「自分は、こんな風に話を聞いてあげてないな。」と反省した。
家族の想いを口にする場面
一通りの質問が終わった後、看護師さんは私たち家族の方へと向き直った。
「ご家族の皆さんは、何か気づかれたことはありますか?」
この問いに答えるのは、正直、気が引けた。本人の目の前で“異変”を話すのは、どうしたって緊張する。けれど、オネちゃんが口火を切ってくれた。
「ちゃんとお話しするよ。いいね。」
「うん・」とサニーちゃん。
そして、例の“通帳を盗まれた騒動”について、淡々と説明を始めた。
不安そうに聞くかと思ったサニーちゃんは、怒るわけでもなく、言い訳をするでもなく、ただ不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。まるで、「そんなことあったっけ?」とでも言うような、どこか現実味のない表情だった。
そして、いよいよ先生との対話へ
その後、血液検査と認知症テストを終え、いよいよ最後に医師による診察を受けることになった。
案内された診察室の扉を開けると、そこには柔らかな表情を浮かべた先生がいた。まるで久しぶりに再会した知り合いのような、ほっとする空気をまとっている。
サニーちゃんは少し緊張した面持ちで椅子に腰かけた。
私たちもそれぞれ席に座り、静かにその瞬間を待つ。
「では、血液検査とテストの結果をお話しします。」
先生の優しい声とともに、サニーちゃんに向き合う時間が始まった――。
つづく
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