【物取られ妄想のゾンビ化】限界を迎える一人暮らし。終わらない嵐の幕開け(前編)

事件

※この記事が、「介護と仕事、自分の生活の間で悩み、心が折れそうなあなた」に届きますように。
 一緒に乗り越えて参りましょう。

ぐるぐる回る頭:前に進みたくない、でもグズグズしていられない

先週のあの、サニーちゃん(母)による凄まじい「物取られ妄想」の記憶が、今も心に生々しく残っていました。

(あぁ、ここからが介護の本番なんだな……)

そう自覚した瞬間、足がすくむような「前に進みたくない気持ち」と、「もうグズグズしてはいられない」という焦りが、同時にワタシを襲ってきました。

「これからは毎週、実家に泊まりに行ってくるね」

意を決して夫のイチ君に打ち明けると、彼は短く「わかった」と受け止めてくれました。 けれど、ここからが問題です。ワタシが実家を空ける間のイチ君の食事は? 家事の分担は? 考えるべきことは山積みです。

さらに、頭をよぎるのは自分の仕事のこと。 (今の仕事を、このまま続けていけるのかな? でも、だからといって自分の人生が介護一色に染まって、どっぷり浸かるのも嫌だ……)

頭の中がぐるぐる、ぐるぐると回り、答えは出ません。 けれど、時間は待ってくれません。とりあえず仕事の連休を利用して、実家へ泊まりに行くことにしました。

物取られ妄想の「ゾンビ化」:先週の続きが、そこにあった

なんということでしょう。 実家の玄関のドアを開けた瞬間、私の背中に冷たいものが走りました。

そこにいたのは、まるで「先週の修羅場の続き」を見ているかのように、怒りで目を吊り上げたサニーちゃんでした。

「通帳がなくなっているわよ!」

開口一番、サニーちゃんが叫びます。

「へ?知らないよ?いつものところにないの?」

(あぁ……また始まってるよ……) ドッと疲れが押し寄せますが、ここでワタシが感情的になっては負けです。「落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ」と自分に必死に言い聞かせました。

「じゃあ、一緒に探そう?」

ワタシがいつもの保管場所を調べようと手を伸ばした、その時。サニーちゃんがキッとワタシを睨みつけ、尖った声を出したのです。

「ちょっと! 勝手に開けないで!!」

自分で「探して」と言いながら、触ろうとすると「盗む気か」と疑われる。介護をしている人なら誰もが経験する、理不尽の底なし沼がそこにありました。

通帳の発見:「うっかり」が許されない、認知症のプライド

今回も部屋中をくまなく、丁寧に探していきました。しかし、やはり通帳は見つかりません。 ほとほと疲れ果て、諦めかけたその時、サニーちゃんが声を上げました。

「あった!」

サニーちゃん自身の部屋の、思いもよらない場所から通帳が出てきたのです。 ワタシは心の底からホッとしました。「私が盗んでいない証明」になったと同時に、サニーちゃん自身が見つけてくれたことが嬉しかったのです。だから、つい気が緩んで、口を滑らせてしまいました。

「うっかり、そんなところに入れちゃったんだね〜」

その「うっかり」という優しい一言が、サニーちゃんの地雷を踏みました。

「えっ? アタシはそんなところに置いてないわよ!」

サニーちゃんはムキになって言い張ります。 教科書通りの「介護セオリー」なら、ここでは「そうだね」と話を合わせるべきなのかもしれません。でも、はっきり言いたいと言う気持ちが大きかったんです。

「誰もこの通帳には触っていないし、ここに置いてもいないよ。サニーちゃんが自分でここに置いたんだよ」

感情を抑え、事実だけを淡々と告げました。そして、お互いの空気がこれ以上険悪になるのを防ぐため、間髪入れずに言葉を被せます。

「さぁ! お茶でも飲みましょう!」

無理やりにでも場面を切り替えようと、努めて明るい声を出しました。

長すぎる夜:帰りたい、でも帰れない

心の中は、めちゃくちゃなモヤモヤと怒りで溢れかえっていました。 何よりツラいのは、ワタシは今夜、この家に「泊まらなければならない」という事実です。

(正直、今すぐにでも自分の家に帰りたい……)

そんなワタシの限界を察知してか、あるいは「自分が通帳を動かした」という現実を受け入れられないせいなのか、サニーちゃんの機嫌は直りません。 ワタシが話すことすべてを否定し、理不尽な怒りをぶつけてきます。サニーちゃんはワタシを試しているのだろうか?

会話が全く続きません。 重苦しい沈黙と、時折響くトゲのある言葉。 ワタシとサニーちゃんの、あまりにも長くて苦しい夜が、ここから始まろうとしていました。

(中編へつづく)

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