【物取られ妄想】昨日の「楽しかった」はどこへ?サニーちゃんの突然の豹変(後編)

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※この記事は、前回の続きとなっています。お時間がありましたら、ぜひ【前編】からお読みいただくことをお勧めいたします。


突然の嵐:怒声で迎えられた夜

「こんばんはぁ!」

いつものように、努めて明るく大きな声を出して玄関のドアを開けました。しかし、返ってくるはずの「おかえり」の声はありません。室内は静まり返り、幸いにも部屋がひっくり返るほど荒らされている様子もありませんでした。

ホッとしたのも束の間、リビングの奥に目をやると、異様な光景が飛び込んできました。

床に直に座り込み、メガネを鼻の先に引っかけるようにして、書類の山に埋もれているサニーちゃん(母)の姿があったのです。

「泥棒が入ったっていうから急いで来たけど、何が無くなったの?」

私がそう尋ねると、サニーちゃんは私の顔を見ようともせず、ピシャリと言い放ちました。

「わからないわよっ!! あんたが取ったんだから、あんたならわかるんでしょ!!!」

我が親ながら、あまりにも無茶苦茶な論理です。しかし、その一点の曇りもない堂々としたエネルギーに、一瞬「なんか妙な説得力があるなぁ……」と不謹慎にも感心してしまいそうになる自分がいました。


サニーちゃんの頭の中に完成した「完璧なストーリー」

「ちょっと落ち着いて。どうして泥棒が入ったと思ったのか、順を追って話してくれる?」

深呼吸をして、努めて冷静に耳を傾けると、サニーちゃんの頭の中で構築された「完璧な妄想ストーリー」が明らかになりました。

『デイサービスから帰ってきたら、自分の机の上がグチャグチャになっていた。お金は盗まれていない。ということは、きっと「家の権利書」が盗まれたんだわ。あんた(ワタシ)とオネ(姉)がグルになって、この家を自分たちのものにしようと企んでいるに違いない!』

サニーちゃんの中では、すべてのパズルのピースが「悪者である私たち」に向けてピタリと噛み合ってしまっていたのです。

「オネちゃんもワタシも、そんな泥棒みたいな真似は絶対にしないよ。じゃあ、その大事な権利書が本当にあるかどうか、一緒に探してみよう」

そう前置きをしてから、私は書類の捜索を始めました。当然、サニーちゃんは私の言葉を1ミリも信じていません。それどころか、自分がその大事な書類をどこにしまい込んだのかさえ、忘れてしまっている状態でした。

隠したわけでもないので、以前から「ここに保管しておこう」と決めていた定位置から、権利書はあっさりと見つかりました。


愛ゆえの荒療治:「忘れてしまう」という真実と向き合う

「ほらね、ここにあるでしょ? 何も変わってないし、盗まれてもいないよ」

現物を見せ、念を押すように優しく語りかけました。しかし、サニーちゃんから「疑ってごめんね」という言葉が出ることはありません。代わりに返ってきたのは、悲痛な叫びでした。

「ワタシを除け者にして、コソコソ何かをしないで!!」

(違う、誰もそんなことしてないよ……)

心の中でため息をつきました。いくら言葉で否定したところで、サニーちゃんの頭の中にある【可哀想な被害者のワタシ】と【コソコソ悪巧みをするずるい二人】という悲しいドラマの台本は書き換わりません。

「ーーここは、本気でぶつかるしかない」

私は覚悟を決めました。これ以上、悲しい妄想のループに付き合うわけにはいかない。私はサニーちゃんの目を真っ直ぐに見つめ、目をキッと大きく開き、普段より少し大きめの、しかし芯のある声で言いました。

「いつも大事なことは、サニーちゃんの目の前でやってるよ! 役所の提出だって、いつも一緒に行ってるじゃない。でも、サニーちゃんに『代わりにやって』って頼まれた時は、ワタシらがやってるの。いつもサニーちゃんに確認しながら進めてるんだよ!」

一気に伝えたあと、私はふっとトーンを落とし、今度は静かに、祈るような声で続けました。

「ただね、サニーちゃん……。サニーちゃんがそれを、忘れちゃうんだよ」

その言葉が響いた瞬間、サニーちゃんの目がぎゅっと歪み、みるみるうちに赤くなっていきました。

「じゃあ……ワタシが悪いの……?」

泣き出しそうな声を受け止めながら、私は首を振りました。

「そうじゃないよ。サニーちゃんが悪いのなんて、これっぽっちもない。全部、サニーちゃんの脳みそのせいなんだよ。病気のせいだから、仕方のないことなんだよ」


【次回予告】嵐のあとに訪れた、涙と温かい食卓

張り詰めていた糸が切れたように、赤くなった目から涙をこぼすサニーちゃん。

激しい怒りの裏側にあったのは‥。このあと、サニーちゃんの口から、切ない「本音」がぽろぽろと溢れ出します。

「ワタシ、あんたたちがいないと……」

大激突の夜が、どのようにして落ち着いていったのか。 次回、この物語の本当の結末をお届けします。どうぞ最後まで見守っていただけたら嬉しいです。

(続編へ続く)

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