【物取られ妄想のゾンビ化】限界を迎える一人暮らし。終わらない嵐の幕開け(完結編)

事件

※この記事は、前回の続きとなっています。お時間がありましたら、ぜひ【前編】【中編】からお読みいただくことをお勧めいたします。

1. 限界のドライブ:怒りと恐怖が渦巻く車内

パニックを起こして「車から降りない!」と激しく駄々をこねるサニーちゃん(母)を、すったもんだの末になんとか車から降ろし、最寄りのコンビニへ駆け込みました。

急いで冷たい飲み物を購入し、嫌がるサニーちゃんになだめるようにして一口、二口と飲ませます。
ワタシはお弁当の買い物をする気力さえすっかり失せ、そのまま来た道をまっすぐ引き返すことに決めました。

真夏のジリジリとした太陽の下、隣でサニーちゃんが何度も生唾を飲み込む気配を感じながら運転するのは、恐怖以外の何物でもありませんでした。ワタシの心の中は、怒りと焦りでパンパンに。

(最悪だ……。泥棒扱いされた上に、こちらの言葉には1ミリも耳を貸してくれない。それなのに、もしこのまま車の中で熱中症が本格化して、容態が悪化したらどうしよう……!)

2. 一度きりの撤退:心が決まった、自宅への帰り道

実家へ戻ると、サニーちゃんは「具合が悪い」というよりも、とにかく不機嫌そうな表情をしていました。

その頑なな態度に、疲れ果てたワタシは(もしかして、具合が悪そうな演技をしてワタシを困らせているのかな……?)とすら思ってしまいます。そんな風に親を疑ってしまう自分自身にも、またモヤモヤが募るのです。

とりあえずベッドに横になってもらい、黙ってナイトテーブルに水分を置きました。

「アタシはもう、今日は夜ご飯は食べない。もう寝るから帰って!」

サニーちゃんは突っぱねるように言いました。 もともと今日は実家に泊まる予定で準備もしてきていましたが、自宅で待つ夫のイチ君の夕食もずっと気にかかっていました。

「今日は泊まらなくていいわよ。明日来てくれれば」

ベッドで寝ているサニーちゃんを見ながら、少しの間考えました。そして一度、自宅へ戻ることにしたのです。

自宅への帰り道、せめてもの慰めにちょっと美味しいお弁当をふたつ買い、ハンドルを握り締めているうちに、ワタシの心の中でひとつの「決意」が固まりました。

「イチ君とお弁当を食べたら、すぐ実家に戻ろう」

3. 再び実家へ:試されていた、私の「本気度」

サニーちゃんの様子が心配だったのはもちろんですが、何より、モヤモヤしている自分の心の整理をつけるために、ワタシは再び夜の実家へと車を走らせました。

玄関の鍵を開けると、リビングに明かりが灯り、テレビの音が聞こえてきます。体調は元に戻っているようです。

「ただいま。気分はどう?」

そっと部屋に入っていくと、待っていたのは予想もしない光景でした。

サニーちゃんが、今日一番の弾けるような笑顔で私を迎えてくれたのです。

「あら〜! お帰り! 戻ってきてくれたの?」

本当に、心の底から嬉しそうな声でした。 その笑顔を見た瞬間、ハッとしました。サニーちゃんは、ワタシが本当に自分を見捨てずに泊まりにきてくれるかどうか、その「本気度」を無意識に試していたのかもしれません。

一度お互いに離れたことで、サニーちゃん自身も我に返り、「一人の心細さ」や「見捨てられる不安」に襲われたのでしょう。
そんな時にワタシが戻ってきたからこそ、彼女の中で私に対する存在が、一気に「悪(泥棒)」から「良(味方)」へとオセロのようにひっくり返ったのだと思います。

その後は、さっきまでの嵐が嘘のような平穏な時間が流れました。 翌日の夕方まで一緒に過ごし、サニーちゃんの心をすっかり整えることができたことに、ワタシは深い満足感を覚えていました。

「あぁ、上手く着地できて良かった……」

ーーしかし。認知症という怪物は、そんな生ぬるい安心に、すぐさま強烈なカウンターパンチを喰らわせてきたのです。

自分にとってはあまりにも理不尽な「物取られ妄想」。 なんと、翌週には早くもカムバックします。

次にサニーちゃんの頭の中から「紛失」し、ワタシたちが盗んだことにされたのは、あの大事な「印鑑」でした。
物取られのゾンビは、本当に、どこまでも恐ろしい姿でワタシたちを追いかけてくるのです……。

(つづく:次回「恐怖の印鑑紛失編」へ)

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