※この記事は、前回の続きとなっています。お時間がありましたら、ぜひ【前編】からお読みいただくことをお勧めいたします。
気分転換にすがる:この重苦しい空気から、一刻も早く逃げ出したい
※(前編で書いた「あの長すぎる夜」を迎える少し前、夕方の出来事です)
実家を包む、本当に嫌な雰囲気。時計を見ると、時刻はすでに午後3時を回っていました。 通帳をめぐる押し問答のせいで、お互いの空気は冷え切ったままです。
(もう、すべてを投げ出してしまいたい……)
そんな折れそうな気持ちを必死に抑え込み、私はサニーちゃん(母)に向かって、できるだけ普通のトーンを意識して声をかけました。
「今日はもう、これから夕飯をイチから作る時間もないし、お弁当でも買いに行こう? 自宅で待ってるイチ君の分も買って、届けてあげなきゃいけないしね」
すると、サニーちゃんも「そうねぇ」と賛成してくれました。 認知症の介護において、「機嫌の良し悪し」は一瞬で移り変わります。サニーちゃんの気が変わって「やっぱり行かない!」と言い出す前に、私たちは大急ぎで家を出発しました。
不安定な気分:地雷はどこにあるか分からない
車を走らせながらも、私の心の中はトゲトゲしていました。 サニーちゃんの頑なさ、これからの介護への不安……。心に余裕がない状態で運転しながら、「さて、どこでお弁当を買おうか」と頭を悩ませていたのです。
そんな私のイライラを察してか、助手席のサニーちゃんが少し不安そうに聞いてきました。
「どこに行くの? いつものスーパーじゃないの?」
私は悪気なく、ただ事実としてこう答えました。 「う〜ん。いつものスーパーは、あんまりいいお弁当がないからねぇ」
ーーこれが、サニーちゃんの逆鱗に触れてしまいました。
「なんでっ!?」と、みるみるうちに不機嫌になるサニーちゃん。 おそらく彼女の中では、自分が普段使っているお気に入りのスーパーを、私に全否定されたように感じてしまったのでしょう。介護の現場では、何が地雷になるか本当に予測がつきません。
車内の空気はさらに険悪になり、私はとりあえず、少し離れた場所にある「ちょっと高級なスーパー」へと車を走らせました。
突然の異変:真夏の車内で、牙をむいた「熱中症」
ところが、目的地へ向かう道中、サニーちゃんの様子が明らかにおかしくなりました。
窓の外は、まるで真夏のような容赦ない太陽が照りつけています。エアコンは効かせているものの、熱された車内の空気のせいか、サニーちゃんが熱中症になりかけていることに気づいたのです。
ふと隣を見ると、サニーちゃんが何度も生唾を吞み込んでいます。
(まずい、脱水症状かもしれない……! 早く飲み物を飲ませなきゃ!)
焦った私は、お弁当屋ではなく、目の前に見えた最寄りのコンビニの駐車場へ車を滑り込ませました。
「サニーちゃん、ちょっとコンビニ寄るから降りよう。お水飲もう。」
しかし、体調が悪い恐怖と、先ほどからのイライラが混ざり合ったサニーちゃんは、子供のように激しく駄々をこね始めました。
「いやだ! 降りない! もう帰る! 早く家に帰るの!!」
車内で繰り広げられる、「降りる」「降りない」の押し問答。 ただ水分を摂らせたいだけの私と、パニックを起こして頑なに拒否する母。 すったもんだの大騒ぎの末、私は半ば強引に、サニーちゃんを車から降ろしたのでした。
(後編へつづく)

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