はじめに:認知症の世界を「旅する」画期的な一冊
「認知症世界の歩き方 ストーリー3 アルキタイヒルズ」 は、認知症当事者が見ている世界を追体験できる、まさに画期的な作品です。特に、この「アルキタイヒルズ」の描写は、認知症の方々の記憶の錯綜や時間軸の混濁が、どのように彼らの行動や感情に影響を与えるのかを深く掘り下げています。
「なぜ、そんなことを言うのだろう?」「なぜ、そんな行動をとるのだろう?」といった疑問を抱えているご家族や介護者の方にとって、この本は理解の一助になると思います。
「懐かしい」の先にある、認知症当事者のリアルな体験
物語の舞台となるアルキタイヒルズ」は、訪れる人々が自身の過去の記憶や大切な思い出を鮮明に思い出し、まるでその時代にタイムスリップしたかのような感覚に陥る不思議な場所です。
この「懐かしい」という感覚は、単なる感傷ではありません。認知症に伴う脳機能の変化により、新しい記憶が定着しにくくなる一方で、古い記憶が強く呼び起こされる現象を象徴しています。脳が記憶を再構築しようとする過程で、現役時代の活動や過去の重要な出来事が、まるで現在進行形で起きているかのように感じられることがあります。
その結果、当時の行動を無意識にとってしまうといった、周囲から見ると理解しにくい行動に繋がることも。例えば、「仕事に行かなければ!」と突然家を出てしまう、「昔の友人に会いにいく」と言い出す、といった行動の背景には、アルキタイヒルズで体験するような「過去の記憶がリアルに蘇る感覚」があるのかもしれません。
家族も当事者も辛い「否定的な解釈」や「事実ではない思い込み」のメカニズム
「アルキタイヒルズ」の疑似体験を通して、私が特に興味深く、そして心を痛めて読んだのは、認知症のある方が陥りやすい「見聞きした話を否定的に解釈してしまうこと」や「事実ではないことを事実と思い込んでしまう事象」です。
これは、当事者ご本人にとっても、そしてそのご家族にとっても、非常に辛い状況だと思います。この状態が長く続けば、当事者、家族双方にとって、苦しい日々を過ごすことになってしまうのではないでしょうか。
「困った行動」の背景にある世界を知る
「アルキタイヒルズ」は、認知症当事者の心の中を覗き込むような体験を提供し、彼らが直面する「なぜ?」の背景にある世界を理解する手助けとなります。
私自身、サニーちゃん(母)の「困った言動」に遭遇するたびに、「ああ、いまホワイトアウトしてるな」「ああ、アルキタイヒルズにいて気持ちいいんだな」と感じるようになりました。この理解が完全に正しいかはさておき、少なくとも私の中で「認知症のある方はどんな世界を見ているのだろう?」という好奇心が芽生えました。
この物語を通じて、筆者の方は、『認知症のある方々の行動を単なる「困った行動」として捉えるのではなく、彼らの「見えている世界」から共感的に理解することの重要性』を強く訴えかけます。認知症は、単なる病気ではなく、脳の仕組みが変化することで生まれる「異なる世界観」を持つことなのだと。
人間の脳の仕組みを知る上でも非常に興味深く読める一冊です。
また、機会があれば他のストーリーについてもまとめていきたいと思います。
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