「7つのお饅頭」事件。サニーちゃん“大人の習慣”から自由になる

まめ知識

年の瀬も押し迫ってきましたね。みなさまは、お歳暮などの「暮れのご挨拶」、どうされていますか?

私の実家は、もともと伝統的な風習にそれほどこだわらない家風でしたが、結婚してから「大人のマナー」としてお歳暮を経験するようになりました。

今ではごく近しい親戚にしか贈らなくなりましたが、高齢の母(サニーちゃん)に代わって、私が手配をするのが毎年の恒例行事。

「今年も元気ですよ。そちらもお元気で」

そんなメッセージを込めて、遠方の伯父へちょっとしたお菓子を手配しました。「やれやれ、これで今年も安泰だ」なんて、私は呑気に構えていたのです。

でも、今年の私は少々「思慮が浅かった」と言わざるを得ません。 今回は、わが家で起きた「7つのお饅頭(まんじゅう)事件」と、そこから私が学んだ「親の老いとの向き合い方」について記録しておこうと思います。

予兆:消えた補聴器

事の発端は1週間前。サニーちゃんが大切にしていた片耳の補聴器をなくしてしまいました。

「一緒に探そう!」と、ベッドやソファの下をひっくり返して探したのですが、見つかりません。私がさらに探そうとすると、サニーちゃんはこう言いました。

「もう片方はあるから大丈夫よ」

それ以上探すことを許さない、頑なな雰囲気。「なくしてしまった自分の失敗」を認めるのが辛いのかもしれません。私はその気持ちを察して、深く追求しませんでした。

事件:「縁起でもない物を送るなんて!」

「そろそろ伯父さんのところにお菓子が届く頃だから、お礼の電話が来るかもよ」

私がそう伝えると、サニーちゃんは「あんまり話したくないなぁ」と渋い顔。耳が遠いので電話が億劫なのかな、くらいに思っていました。

しかし数日後、サニーちゃんから朝早くに電話がかかってきました。かなり怒っています。

「伯父さんから電話があったんだけど、何を送ったの!?」 「『7つのお饅頭を送ってくるなんて縁起が悪い!』って怒られたわよ!」

私は耳を疑いました。 えっ、サニーちゃんと一緒に選んだのは「お煎餅」のはず。

慌ててオンラインショップの注文履歴を確認しましたが、やはり送ったのはお煎餅。お饅頭なんて送っていません。 サニーちゃんに「うちはお饅頭なんて送ってないよ。きっと何かの間違いだよ」と伝えても、彼女の怒りは収まりません。

「全く失礼しちゃうわ。もう来年からは贈らなくていいわよ!」

真相:伯父さんが聞いた言葉

その後、オネちゃん(姉)から連絡があり、事の真相が少し見えてきました。 伯父さんがオネちゃんに電話をくれ、こう話していたそうです。

「お礼の電話をしたら、お母さんに『あんた、誰? あんたなんか知らない』と言って電話を切られてしまったんだよ」

……頭の中がこんがらがりました。

  1. 私の事実: お煎餅を送った。
  2. サニーちゃんの事実: 「7つのお饅頭を送って縁起が悪い」と伯父に怒られた。
  3. 伯父さんの事実: お礼の電話をしたら「誰?」と言われて切られた。

整理すると、サニーちゃんは伯父さんのことを認識できていなかったことになります。 そして「7つのお饅頭」の話は、聞こえなかった会話の隙間を、脳が勝手に悪いストーリーで埋めてしまった「作話(さくわ)」の可能性が高いのです。

耳が悪くて聞き取れなかったのか、認知症の進行で理解できなかったのか、あるいはその両方なのか。 確かなのは、「サニーちゃんの中では、自分が被害者(怒られた側)になっている」ということだけでした。

「伝統」からの卒業

オネちゃんが、伯父さんには丁重にお詫びをしてくれたので、親戚付き合いとしては事なきを得ました。

でも、私はハッとさせられました。 良かれと思って続けていた「お歳暮」という習慣が、今のサニーちゃんには重荷になり、混乱とトラブルの種になってしまったのです。

サニーちゃんが言った「もう来年からは贈らなくていいわよ」という言葉。 これは単なる怒りではなく、「もう、そういう複雑なやり取りから私を解放して」というサインだったのかもしれません。

認知症や高齢による衰えは、ある日突然やってくるものではなく、グラデーションのように少しずつ進んでいきます。 今回の出来事は、サニーちゃんが「親戚付き合い」や「季節の挨拶」といった社会的な役割から、卒業する時期が来たことを教えてくれました。

これからについて

今回のことは、「失敗」ではなく「転換点」だと受け止めることにしました。

  • 補聴器について: 「なくした」と責めず、「ちょうど3年経つから、新調する時期だね」と新しいスタートを切ることにしました。
  • ケアマネさんへの報告: 今回の「作話」や「人物の認識不足」は、ケアマネジャーさんにもしっかりメモで渡して共有しようと思います。

親ができることが減っていくのは寂しいものです。でも、「今まで通り」を求めて混乱させるよりも、「今の母ができる範囲」に合わせて環境を整えることが、家族の新しい役割なのだと痛感しました。

今年の年末は、形式的なご挨拶は控えて、サニーちゃんが心穏やかに過ごせることだけを考えようと思います。 みなさまも、どうぞご無理のない年末をお過ごしくださいね。

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