診察室の扉を開けて
診察室に入ると、柔らかな空気をまとう医師が笑顔で迎えてくれた。先ほどの認知症テストや血液検査の結果を見ながら、穏やかに話し始めた。
「認知症のテストは、そんなに悪くないですね。まぁ、すごく良いというわけでもありませんが。血液検査も問題はありませんでした。さて、何か困っていることはありますか?」
耳の奥の旋律
その問いかけに、サニーちゃんが口を開いた。
「先生、わたし、耳の中でずっと音楽が鳴ってるんです。嫌な曲じゃないんですよ。ジョージア国家みたいな、すごくいい曲なんですけど……これって変ですよね?」
先生の表情が少し変わり、真剣なまなざしに。
「えっ、それはいつからですか? ずっと鳴っているんですか?」
「うーん、それはよく分からないんですけど……最初はすごく昔の曲が聞こえてきて。唐人お吉ってご存知?」
「うーん……『唐人お吉』はちょっと分からないな。でも、今はジョージア国家なんですか?」
「はい。だから今はいいんです。でも、それが流行歌とかになったら嫌だなって……。それが心配なんです」
「確かに、それは気になりますね。うるさい曲になったら大変ですし」
先生は驚きながらも、サニーちゃんの不安に共感し、丁寧に耳を傾けてくださった。
「今も鳴っているんですか?」
「いえ、おしゃべりしたり、何かに夢中になっていると聞こえなくなるんです。でも一日中鳴っている時もあって……ちょっと疲れちゃうんです」
見えない症状に向き合う
「そうですか。それは大変ですね……」
先生は、すぐに「では、一度MRIを撮ってみますか」と提案してくださった。私たちは3人そろって、深く頷いた。
そしてオネちゃんが確認した。「あの、検査のあとも、先生に診ていただけますか?」
その問いに先生は「もちろんです」と答えてくださった。
私は心の中で、ホッと胸をなでおろした。
この先生になら、これからも安心して任せられる――そう感じた。
次なる一歩へ
診察を終えた私たちは、次回のMRI検査の予約を取り、病院をあとにした。
冬の空気は冷たく澄んでいて、診察前とは少し違った、落ち着いた気持ちが胸にあった。
勇気を出してここに来て良かったとみんなで喜んだ。
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