「靴の脱ぎ履きがつらくなってきたのよね」
そうつぶやいたサニーちゃんの声は、少しだけ寂しそうだった。
そこで私は、サニーちゃんと一緒にホームセンターへ出かけることにした。目的は、玄関に置くための椅子を見に行くこと。
ただ、サニーちゃんは昔から新しいものに対してちょっと頑な。何かを買い替えたり、新しい道具を使うことには、いつも慎重で、少し不安そうな顔をする。
でも今回は、実際に“玄関椅子”というものに座ってみることで、その便利さを体で感じてもらいたかった。
「これ、立ち上がるのがすごく楽だわ」
そう言ってくれたとき、私は心の中で小さくガッツポーズ。
ようやく、サニーちゃんの「納得」が得られた。よし、これで購入できる。
帰り道の車の中で、サニーちゃんはポツリポツリと幼少期の話をし始めた。
昔、父に買ってもらった水着の話、中学生の頃のクラスメートの話。
最近、自分の幼少期の話をよくしてくれる。
その夜は、一緒に夕飯を作った。
サニーちゃんは今でも包丁さばきが見事。手際よく材料を切っていくその姿に、
「この力は、ずっと残してあげたいな」と思った。
ここ最近、オネちゃんと私が交代でサニーちゃんのケアをしているおかげか、
彼女の気持ちはだいぶ落ち着いてきたように見える。
あの「通帳事件」のときのような、疑い深さや混乱は少なくなってきた気がする。
体力も少しずつ戻ってきている。でも、やっぱり記憶力の衰えは隠せない。
先日も、お風呂で髪を洗った直後に「ねぇ、私、頭はもう洗ったっけ?」と聞いてきた。
こういう小さな変化が積み重なるんだな。ゆっくりでいいのにな。
そろそろ、地域包括センターに相談に行って、介護保険の申請も視野に入れたほうがいいかもしれない。
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