軽度認知障害(MCI)〜その④

お出かけ

イベントにはなんとか参加できたものの、サニーちゃん自身「もしかしたら」と感じたことはあったのだろうか。

撮影自体は、とても楽しかったようだ。カメラの前に立つ、おしゃれをしてメイクを施される——まるでモデルになったような気分が、サニーちゃんの心にじわじわと広がっていったのかもしれない。

撮影後には、タレントの藤岡弘さんが登壇するトークショーがあった。独特の存在感をまといながら、ご自身とご家族との関わりについて静かに語る姿に、サニーちゃんはじっと見入っていた。芸能人を目の前で見るなんて、なかなかない経験だ。どこか嬉しそうな表情が印象的だった。

トークショーの後、会場の一角に展示されていた認知症に関するパネルをふたりで眺めた。けれど、サニーちゃんの様子からは、関心がないのか、あるいは見たくないのか、正直わからなかった。

その後はスタバでコーヒーを飲み、クイーンズスクエア内をぶらぶらと探検。日常から少し離れた空間を楽しんだあと、そろそろ帰ろうかという流れになった。

帰りの電車では、幸い座ることができた。ホッとしたのかサニーちゃんは少し疲れが見え始めていた。地元に戻ると、評判の洋食屋さんで早めの夕食をとることにした。食事をしながらの会話は穏やかだったが、帰り道の車の中で、私はつい今日のトークショーの話題を口にしてしまった。

「気になる症状があったら、お医者さんに行きましょうって言ってたね」と言うと、サニーちゃんは少し強い口調で返してきた。

サニーちゃん
サニーちゃん

認知症の症状なんて、わかるわけないわよ。わかったらもう終わりなの

私は慌てて気持ちを切り替えるように、

わたし
わたし

でも、サニーちゃんはよく動いてしっかり食べてるから元気だよ

ところが、それが引き金になってしまった。

「“よく食べる”って言い方やめて。『食べてえらいね』ならいいけど、『よく食べる』って言われると、認知症になった時に夜中こっそり食べる人みたいじゃない!」

そんな風に妄想が混じった言葉が出始めたので、私はすぐに「ごめん、もう言わないね」と静かに謝った。

そして間を置かず、「明日は雨が降るのかな?」と話題を変える。するとサニーちゃんの顔から少しずつ険しさが消え、ようやく空気が落ち着いた。

「今日はあたしを下ろしたら、そのまま帰っていいからね」とサニーちゃんが言う。

「うん、でも洗濯物と荷物だけ、ちょっと取らせてね」と私。

疲れた日には、心も不安定になりやすいのかもしれない。イライラや妄想が顔を出す時こそ、寄り添い方を忘れずにいたい——そう改めて感じた一日だった。
                                   つづく

コメント

タイトルとURLをコピーしました