本当はこんなことしたくない。でも、「あの時やっておけばよかった」と後悔もしたくない。
市役所には認知症の相談窓口がある。地域包括に行く前に相談窓口に行ってみることにした。
私はデイサービスで働いている。
ある日、サニーちゃんのことを職場で相談すると、スタッフみんなが真剣に耳を傾けてくれた。
「物取られ妄想の次は、迷子が来るかもしれないよ」
誰かがそう教えてくれた。
そうか、そういう段階なんだ。
信じたくはなかったけれど、「妄想」が出たということは、もう認知症を認めざるを得ないということなんだ。悩んでいても状況は進んでいく。だったら、できることを一つずつやっていこう。
市役所で「SOS登録」という制度があると聞き、私はさっそく調べてみた。
これは、行方不明になった高齢者を早く保護するための仕組み。いま迷子になる心配は少ないかもしれない。でも、何か起きてからでは遅い。
サニーちゃんをジムに送り出したその足で、私は市役所の認知症相談窓口に向かった。
正直なところ、かなり気が重かった。「親のことを悪く言いに行く」ような後ろめたさと、「現実から目をそらしてはいけない」という責任感。そのふたつが、胸の中でせめぎ合っていた。
でも、行ってよかった。
窓口の担当者は、私の話を遮らず、丁寧に、そして優しく聞いてくれた。
話しながら胸が痛くなり、目の前がボヤけていった。必要書類に記入する。
なぜだか罪悪感を感じた。「ごめんね。何かあっても守るからね」書きながらそう決意した。
帰りにおはぎを買って、サニーちゃんを迎えに行った。
彼女はご機嫌だった。
「オタマと一緒にいると楽しいわ。もう、ケンカしないで仲良くやっていきましょうね」
そう言って笑うサニーちゃんに、私は「うん」とだけ返した。
(私は、何も怒ってなんかいないんだけどな)
心の中で、そっとつぶやいた。
週末には、軽度認知障害(MCI)のイベントが予定されている。行けるのだろうか?お断りの連絡を入れるべきか、まだ判断がつかない。しかもなんと言って誘えばいいのだろう。
もう少し、ギリギリまで様子を見てみよう。
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